「呉須」と呼ばれる顔料で精緻な絵付けをほどこし、透明な釉薬をかけて焼き上げる「青花」。ヨーロッパの王侯貴族をも魅了したこの美しい陶磁器は、元時代の中国で完成の域に達した。海のように深い、あざやかな青色を発する呉須は当時、神秘的な存在。東方からもたらされる青花は、西欧ではつくり出すことのできない至高の芸術品だった。この「呉須」に天然のコバルトが含まれていることが明らかになったのは18世紀。以来、コバルト鉱石から青色の顔料を化学的に合成することが可能となり、ヨーロッパにブルー&ホワイトの技法が広まっていった。
19世紀初頭には、酸化コバルトと酸化アルミニウムを主成分とする絵の具「コバルトブルー」が誕生。ここにいたり、コバルトは「青色」の代名詞的な存在となる。だが、コバルトが呈する色は、じつは「青」だけではない。青みがかった「コバルトグリーン」、黄金色に輝く「コバルトイエロー(オーレオリン)」など、コバルトは組み合わせるものによって寒色系にも、暖色系にも色を変える便利な顔料なのである。